よみもの

　新海さんの「秒速５センチメートル」のDVDが発売
されている。これは間違いなく傑作。劇場で見ていない
方は、ぜひ購入を。

　正直なところ、私は別に新海さんの信者ではない。
だから言うが、「雲のむこう」は今ひとつだったように思う。

　確かに映像はすばらしく美しい。しかし、無駄にこって
いるというか、気軽に見飛ばせるカットがほとんどなく、
20分も見ていたらもうもうおなか一杯。

　それに対して、ストーリーの方は、あまり面白くない。
というか、登場人物の誰の何に感情移入したらよいのか
よく分からないのだ。

　なにしろ、もともと45分程度のつもりだった企画が、
継ぎ足し、継ぎ足し90分の長編になってしまった。制作して
いる過程で、新海さん自身、何を描きたかったのは、訳が
分からなくなってしまったのだ。

　「しまったのだ」とあえて断定的に書いたのには理由がる。
　試写会で「雲のむこう」を見た後、新海さんに電話してみた。
かま「構想段階でこれが描きたいって言ってたこと全然描けて
なかったやん？」
新海「えっとですねぇ。…ボク、何を描きたいって言ってまし
たっけ？」

　忘れるなよ…（笑）


　そんな「雲のむこう」に対して、今回の「秒速５センチメートル」は、
一編の長編ではなく、三つの短編のオムニバスという形式をとって
いる。

　私は常々、“新海さんに長編を作らせるよりも、短編をたくさん
作らせた方がよい”と言っていたが、それをC.W.社が受け入れた
…という訳ではないだろうが。（笑）

　その甲斐あって、各短編で何が描きたかったのか、何が言いたい
のかが、非常に明確になっている。短編１つに、描きたいこと１つ。
短編の良さ、新海さんの良さがうまく出ているのだ。

　また、制作体制も、「雲のむこう」のような大人数ではなく、
少人数制作に戻した。このため映像面では、絵の密度やこり方は
若干薄まった面はある。しかし、上記のように、むしろこの方が見
やすい。それに、どっちにしろ、通常のアニメより遙かに美しい。

　そして、普通のTVアニメではなく、個人ベースの作品だからこそ
できる大胆なアプローチもある。（ネタばれするので書かないが）
　某アニメ雑誌の編集部の方は、“いくらなんでもあの手法はやりすぎ
だろう”と否定的だったが、私は何の問題もない、十分アリだと思う。

　ということで、「5cm」は、過去の新海さんの作品の中でも、最高
傑作だと思う。
　もし、「雲のむこう」を見て、“新海さんも、もうこのレベルが限界だ”
などとか思った方がいたら、それは完全な間違いだ。
　ぜひ、「秒速５センチメートル」のDVDを見て欲しい。

　そして、“あぁ、これだったら劇場で見ておきたかった”と後悔する
だろう。

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