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タイトル: 別れの刻
作者名: せん
使用ソフト:指定なし
その他使用ソフト:
作品解説: 通称“天使”と呼ばれる戦闘機が二機、降下したという話を聞きつけ、少年パルベルは、母親の手伝いを放り出して、広大な荒地に向かった。果たして、2体の“天使”は奇蹟のように美しく巨大な姿を、赤茶けた大地に屹立させていた。
一機の“天使”が巨躯を屈めると、少年の前に自らの右手を開いて見せた。
「仔犬だ・・・!」
少年の顔は、一瞬、薔薇色に輝いたが、すぐに、複雑な表情が刻み込まれた。
「前から犬がほしい。弟のように可愛がれる犬が欲しいといっていただろう、パルベル」
コクピットから発せられた父親の声が機外マイクに乗せて、少年の耳朶に届けられた。
「父さん・・・やっぱり父さんじゃないか!」パルベルは、“天使”の掌で不思議そうに少年を見つめる仔犬に歩み寄りながら、もう泣き声になっていた。「戦局は不利なんだろう。なのに、なんで志願なんかしたんだよ。今さら父さんが戦わなくたって、戦争は終わるよ」
「オスの仔犬だ、わが息子よ」
 そういう父親の声は、まるで巨大な“天使”が人間の魂をともなって語っているような錯覚を少年に与えた。
「おれは、お前に兄弟を与えてあげられなかった。満足な食べ物も幸せも、だ。だから、これは、おれがお前にしてあげられる最初で最後の息子孝行だと思って欲しい」
 こんな犬なんか、そんなんじゃなくて・・・。パルベルは、心に競りあがる100もの言葉を同時に口にしようとして叶わず、ただ、無邪気に小首を傾げる仔犬の首に両手を巻きつけ、泣いた。
「パルベル、おれは、陛下に恩がある。恩義には報いなくてはな」自分が操る“天使”の掌に縋り、泣きじゃくる息子を機外カメラに捉えながら、父親は、静かに言った。「いつか・・・そう、お前も大人になったならわかる時がくるだろう。そのときまで、お前は生きてこの国の復興に力を注ぐのだ。そして、できれば、未来と夢と希望のすべてをお前達に託して祖国の土になった多くの無名の戦士たちのことを、忘れないでいてほしい」
「父さん・・・」
思わず“天使”の無表情な頭部を見上げるパルベルの涙に暮れた頬を、仔犬が無心に舐める。少年が、父の覚悟と死期を感じ取ったのはこの時であった。
「隊長、7時の方向に熱源10。強力です。おそらく敵でしょう」僚機のコクピットに座した部下のベルドマン少尉が報告した。「そろそろ・・・お別れを」
 父親は、無言でレバーを引き上げた。油圧風が少年めがけて吹きつけ、機体が軋み、巨人は、再び暮色に翼を輝かせて、轟然と立ち上がった。
 少年は、仔犬を抱き上げると、一世一代の作り笑顔とあらん限りの大声で叫んだ。
「父さん、ぼく、母さんに言うよ! 弟ができたって。父さんがぼくに弟を連れてきてくれたって! だから・・・」
 後の言葉を2機の“天使”が噴射するバーニアの轟音がかき消す。
「パルベル、母さんを頼む!」父親は、思いのすべてを大気に彫り込むように叫んだ。「お前の父親になれたことを、おれは誇りに思う!」
 地上を翔け立った二羽の猛禽は、瞬く間に蒼白い閃光と化して残照の高処に消えていく。
「・・・父さんは立派だよ、立派だけど・・・」
 決して届かぬ息子の声と叶わぬ願いを、暑く焼けた大気が焦がし、山脈の彼方に虚しく吹き飛ばしていく。
投稿日: 2004年07月01日15時25分
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2 件のコメントがあります。
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ありがとうございます。  投稿者:せん  投稿日:2004年07月09日 
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相変わらずディテールがわかりにくい作品にもかかわらず、ご感想いただき、ありがとうございます。L3&動画全盛の昨今ですが、ぼくは、殿堂入りするほどの優れた動画でさえも、ご覧になった皆さんの想像力が繰り広げる動画の素晴らしさには劣ると確信しておりまして、だからこそ「作品を補う物語あるいは物語の挿絵」の考え方に従い、このようなスタイルにした次第です。
ご指摘のスカート状装甲については、確かに多少湾曲したほうが奇麗ですし、逆にリアルかもしれませんね。そういう発想が欠けていたような気がします。今後の参考にさせてください。
今後ともよろしくお願いいたします。

小説だ・・・  投稿者:santarou  投稿日:2004年07月08日 
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どうも,santarouでございます。
まずは小説のような解説に圧倒されました。すごいですね。
国語力のない自分としてはうらやましい限りです。

さて,作品のほうなんですが,翼先端の羽状の展開ラインがとてもきれいだと思いました。
ただ,パーツ形状のせいもあるかも知れませんが,ちょっと「厚ぼったい」感じがしますので,もう少し薄い感じが自分的にはいいかなぁという気がします。
あと,もしスカート状の装甲が継ぎ目ごとに曲がったら,柔らか味が出て,羽とマッチするかなぁと・・・


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